編集幹事、ばんざいです。

 前回「フレームに関する定説と現実」の続編として、『硬いフレームは脚に来る』と言われる事に関して私なりの考察を述べます。

 まず『脚に来る』というのはこの場合、ペダリングの反力で筋肉疲労や関節へのダメージが進行しやすい、という意味かと思われます。

 物理的には空力、転がり抵抗や機械的フリクションロス、重量などの条件、速度や加速度等の走り方が同じだったら、必要な運動エネルギーは同じ筈です。
 硬い、つまり剛性が高いフレームは入力に対する損失(フレームがたわむとその力は熱エネルギーに変換されて大気解放され、推進力に還元されない)がより少ないので、むしろ効率は良い筈です。

 にもかかわらず『脚に来る』のは何故か?
 答えは力の伝達時間にあります。
剛性が高いフレームの方が入力された力をホイールに伝えるまでの時間が短い、というのはイメージ出来るでしょう。
 作用反作用の法則で、その反力も短時間で返ってくるわけです。
 力が短時間で伝わるという事は、仕事率は同じ(=同じ出力を発生している)でも、瞬間的に大きな力が返って来るという事になります。

 これに対して相対的に剛性が低いフレームは時間を掛けて穏やかに力が伝わるので、反力も相対的に小さな力で時間を掛けて返ってくる、というわけです。

 実は多少しなるフレームの方が伸びがあるとか評されるのは、入力に対して穏やかな反応を示す、つまり踏み込んでから若干遅れて加速するというタイムラグによる錯覚であると予想されます。
 フレームのたわみは熱エネルギーに変換されるパワーロスでしかなく、推進力に変換される事は物理的にありえません。

 ではやはり、ロングライドには剛性の低めなフレームが向いているのか?
 私はそうは思いません。
 反力は入力に応じてしか返って来ないのです。
 自分のペースで走れる場合、瞬間的な反力が返って来ないように穏やかで滑らかなペダリングをすれば良いでしょう。
 脚に来るほどガツガツ踏む必要は無い筈です。
 比較的スピードは遅く加速も穏やかに、極力イーブンペースで走った方が効率が良いロングライドの場合、少ない力をロス無く有効に伝えられる剛性の高いフレームの方がむしろ有利とさえ言える筈です。
 ただし実際のところは、大きな入力(=強い踏み込み)をしなければフレームのたわみによるロスも少ないので、高剛性の優位性もそれほど無いとは言えますが。

 逆にロードレースやトラックレースの対人種目などは、アタックを掛けたり相手のそれに反応したりと瞬間的な加速を要求され、否応なく強く踏み込まざるをえないシチュエーションの連続となる為、多少パワーロスがあっても反力が穏やかな、ある程度たわんで力を逃がしてくれるフレームの方が結果的に脚に来にくいという事になります。
 特に「繰り返し」加速が要求される中長距離種目の方がその傾向は顕著になります。

 よく「脚力が無いと硬いフレームは踏みこなせない」などと言われますが、いかに物理法則を無視した出鱈目な発言でありましょうか。
 むしろ逆なのです。
 ガツンと踏み込む必要があり、瞬間的に大きな入力をするパワーのある選手の方が、硬過ぎるフレームを問題にするケースが多いのです。
 実際、プロの短距離トラック競技である競輪選手のフレームは、ほとんどは一般的なロードフレームより剛性は控えめです。
 剛性が出せないのではなく、むしろ剛性を出しやすいオーバーサイズ(断面直径が大きなパイプ)が敬遠されがちなほどです。
 競輪選手の場合、『硬いフレームは脚に来る』という先入観が強過ぎるきらいもありますが。

 それ以前にもっと単純な話として、剛性が高く反応が良いフレームは加速がキビキビと心地良いので、その感覚に酔って知らず知らず必要以上にガンガンオーバーペースで踏んだり過剰な加減速を繰り返してしまい、結果的に乗り手の体力が早く売り切れているというケースがよく見受けられます。

 そのような過剰に急激な加速をしてもいないのに脚に来るという事は、ぎくしゃくした下手なペダリングをしているケースが多い事が予想されます。
 特に下死点付近で下向きに踏み込んでしまったりすると、駆動力にはならないのにてきめんに脚に来ますが、硬いフレームだとそれが一層顕著になるのです。
 初心者やもっとペダリングが上手くなりたい人は、ラフな踏み方をしても脚に来ないフレームではなく、ガチガチの高剛性フレームにペダリングの駄目出しをしてもらう事をお勧めします。

 これらの事は、フレームに限らずシューズ、クランク、ホイールなどにも同様に言えます。