編集幹事、ばんざいです。

 来る2/5コミティアXでは、ロングライダースVol.2.0の頒布の他、我々が実際に乗っている自転車の展示も行います。
 何せ折角の創作系イベント、コミティアですからね。我々は展示物もワンオフですよ。

 以前のコミティアでは佐々木少年号及び製作中のあきばっくす編集長号、ばんざい(pM@S)号を展示の様子。
http://blog.livedoor.jp/akibaxjapan/archives/3485621.html
http://blog.livedoor.jp/akibaxjapan/archives/3490271.html

 今回は完成形かつ実際にブルベ等もこなされたあきばっくす編集長号がメイン展示となります。
 当日雪が降ったりしたら搬入車両の都合上展示台数は減るかもしれませんが、最低限これだけは。

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思えばあきばっくす編集長が参加するフレッシュ(詳細はロングライダースVol.2.0参照)に間に合うのかとひやひやしたものですが、今までまともに紹介してこなかったなと思い出し、今更ながらその製作過程も少々公開。

 フレームを製作する前に「そもそもどんな自転車が欲しいのか?」というブレーンストーミングが重要。
 私の会社の試乗車及び私の自転車に試乗して頂き、それを叩き台にライディングポジションや乗り味の希望などを伺い、相談の上その方向性を決めます。
 ポジションに関しては基本的に私の目見当で決定。
 あきばっくす編集長の御希望は「レースよりもロングライドに向いた志向で」と。
 バランスが取れたレーシングフレームは、ライディングポジションの問題さえ無ければロングライドにも向く、というのが私の設計思想ですが、折角フルオーダーなので少々アレンジします。
 具体的には無理なくサドルを後ろ目にセット出来る(前後に調整の余裕を持たせる為)サイズの割りに比較的寝たシートアングル。
 アップライトなポジションを実現する為、やや長めのヘッドチューブ(=大き目のホリゾンタル換算フレームサイズ)。
 適切な前後重量配分の為にフロントセンターを確保し、適正なトレールを維持し直進性と重過ぎないハンドリングを両立する為やや寝たヘッドアングルとそれに合わせたフォークオフセット。
 市販フレームではサイズに関わらず同一オフセットのフォークを使用せざるを得ない場合が多いので、ここはハンドメイドならではの優位点です。
あきばっくす様
 ちなみにフォークブレード形状もあきばっくす編集長のリクエストに応えストレートとベンドの中間的な「ほんのわずかにベンドした」形です(これは先の佐々木少年号にも採用しています)。
 ストレートフォーク特有の、過剰気味な剛性による前乗り気味にダンシングした際の突っ張り感を若干なりともマイルドに――という意図も無くはないですが、実際にこの程度のベンド量(ブレード自体でのオフセットは20mm)では、かなりストレートに近いフィーリングになります。

 まずブレードをベンダーにセットし、「大体このくらい?」と手で曲げ、左右とも適正なベンド量になっている事を確認。

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ちなみにクラウンにセットしフォークになった状態で曲がりが後ろ広がりにならぬよう、左右で微妙に角度を変えて(=楕円ブレードの芯をずらして)曲げています。

 次に万力に固定したフロントエンドにブレードを差しロウ付。
 この際、ブレードに広範囲にロウが飛び散っていたら過剰に炙り過ぎて母材を傷めていると見て間違いありません。
 ロウ材を回したい部分だけロウ材の融点まで温度を上げるのが基本。

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 フォークの形になると仕上げ難い部分なので、先にエンドだけヤスリとベルトサンダで仕上げて形を整えます。

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 フォーククラウンとコラムも先にロウ付。
 フロントフォークは小さな接合面積に対し大きな力が加わる部位ですので、ロウ材も比較的強度の高いニッケル系のものを使用します。

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 先にエンドをロウ付したブレードを適当な長さにカットし、ジグにセットしクラウンにロウ付。

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 クロモリフォークはオーバーサイズのカーボンフォークと比較して剛性に劣ると思い込んでいる方が多く見受けられますが、実際には使用するフォーククラウンによって大きく変わります。
 そう、ブレード自体よりもクラウンによるところが大きく性格を左右するのです。
 もちろん使用するブレード等にもよりますが、あきばっくす号に使用したLongshen LC-32という中空で軽量高剛性なフォーククラウンの場合、むしろ最新の3TやTIME等の高剛性フォークと同等以上の剛性になり得ます。

 硬いフォークだと突き上げが激しくて乗り心地が悪くなるのではと思われがちですが、実際にはスチールのストレートフォークを選択した方の多くが問題無い、あるいはむしろ乗り心地に関しては改善されたと言う印象を持たれるようです。
 これは路面からの入力をすばやくフレーム全体に伝え、分散して吸収している効果と思われます。

 そしてフォークに負けない前三角。
 フレーム本体は、乗り心地の面から突き上げを分散するのみならず、コーナリングフォースなども含めフォークからの入力をフレーム全体にリニアに反映させることによりコントロールしやすいハンドリングを実現します。
 逆に前三角のねじれ剛性が低いと前後輪がバラバラの挙動を示し、乗り手の意思を反映し難い乗り味となりがちです。
 相対的に後ろ三角より前三角の曲げ、捩れ剛性が高い方がよいフィーリングを生みます。
 具体的にはトップチューブ、ダウンチューブをスタンダードゲージ(φ25.4及びφ28.6)に対し一回り太いオーバーサイズ(φ28.6及びφ31.8)とし、かつ材質を通常のクロモリ(4130鋼)より剛性の高い8630(カイセイ)及びニオビウム鋼(コロンバス)を使用。

 そして楽に長い距離を走る為には、少しでもペダリングトルクをロス無く有効に伝えたいところ。
 当然、剛性が高いほどパワーロスが少なくなります。
 その為には酷く大雑把かつ乱暴に言うとダウンチューブ
>チェンステー>シートチューブの順で影響が大きくなります。
 チェンステーもスタンダードゲージではφ22.2となるところをφ24.0のコロンバスを使用。
 チェンステー自体で剛性を確保出来るのと、縦にオーバル加工された形状からチェンステーブリッジを入れても入れなくても側面がたわみあまりフィーリングに変化が無い為、チェンステーブリッジは省略。
 掃除もしやすくなりますし。

 チェンステーも先にエンドをロウ付し、仕上げます。
 エンドにあいている菱形の窓は形が気に入らないのでロウで埋めました。

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(作業手順的にやや前後しますが)
 フレーム本体は、まずラグの中心線を罫書き。

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どういう形にカットするかマーカーでなんとなくあたりをつけ。

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グラインダやベルトサンダで形を作ります。

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 あらかじめCADで算出した寸法、角度に更に経験的補正を加え、旋盤でチューブをカット。
 シートチューブにシートラグをロウ付→中間仕上げ→シートチューブにボトルケージ台座ロウ付→ハンガーラグにシートチューブを仮付→前三角仮付→後ろ三角仮付と言う手順で進めます。
 一人で作業していると途中の画像を撮る暇が無かったので中略。

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一度右側から仮付したら裏返して定盤にセット、寸法制度を確認、修正。反対側からも仮付け。

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つまり、点付しまず設計通りの寸法を形作るのが仮付です。
 ここで先に正確な寸法を出さずにいきなりロウを回すと絶対に精度が出ません。

 また、この段階でラグをチューブに密着させておきます。
 これが不十分だと、ラグがチューブから浮いて隙間をロウで埋める事になる為、ぼってりとみっともない事になります。

 そしていよいよ自在に角度を変えられるクランプにセットし、シートステーブリッジを付けてから本付。
 ヘッドラグ及びシートラグは真鍮ロウ、ハンガーラグは熱応力による歪みを最小限にする為に融点の低い銀ロウを使用。

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 ワイヤカップやボトルケージ台座などの小物を付け、ヘッドチューブ端面をカット、リーマーを通したら仕上げ(このあたり、実は本付以上に工数掛かるんですが作業しながら画像撮ってる余力が無かったので省略)。
 ラグからはみ出したロウをヤスリで落とし、ベルトサンダでラグを薄く削り形を整えます。
 見た目の問題だけでなく、一種のアウトバテッドになっているラグの縁に向かって薄く仕上げることにより、応力分散しやすくする事で耐久性や乗り味にまで影響するのです。

ヘッド下
ヘッド上

 塗装は専門の外注へ。
 カッティングシートをプロッタで切り出し、生地フレーム、塗装指示書と共に塗装屋へ送ります。
 ちなみに色見本としてあきばっくす編集長のジャージも同送。
内田さま塗装指示
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 実はこのプロッタで切ったカッティングシートを抜く作業が言いようの無い手間が掛かるのですが……。
 待つ事しばし(注:本当にかなり待たされた)。
 しかし、待った甲斐あってああきばっくす編集長も納得の色再現性。

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パーツアッセンブルはコストパフォーマンスに優れたシマノ・アルテグラ(新色グロッシーグレー)が基本。

 早速シェイクダウン。
 ちょうど開催されていたオダックス千葉主催のBRM917喜多方600kmのゴール地点のスタッフに差し入れとロングライダースを献本がてら立ち寄り、その後筑波方面へ。

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 峠も含め軽く100km少々の試乗で乗り味もご納得いただけたようで、早速その後のフレッシュにも使って頂けることに。

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ダウンチューブ下側に付けたツールボトル用のボトルケージも好評。

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 あきばっくす編集長、コミティア当日はブルベを走った後、会場へ直行予定ですので、畳スペースで轟沈していたら寝かせておいてあげて下さい(笑)。

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 ばんざいは常に展示スペースに待機している予定でおりますので、あきばっくす号の事に限らず何でもお気軽にお声掛け下さい。