編集幹事、ばんざいです。

 「フレームに関する定説と現実」
「『硬いフレームは脚に来る』の真実」に続き、より具体的なロングライドでの使用を踏まえた自転車選びを考えてみましょう。

 もちろん普通のママチャリだろうが入学祝いに買ってもらったクロスバイクだろうが、やる気と工夫次第でいくらでも遠くまで走れます。
 リカンベントが最高、という方もいらっしゃるでしょう。

 ――と言っても、ある程度範囲を絞らないと話が散漫になり過ぎますので、ここでは「限られた時間を有効に使ってより遠くまで走る」という欲求を満たしてくれるという事で、いわゆる一般的なロードバイクに限って話を進めさせていただきます。

 それも、これからロードに乗り始めようとか、そろそろ今乗っている自転車に不満が出てきたので乗り換えたいといった方を対象として考えます。
 既に乗る自転車がある人はそれを乗り倒しつつ、次の買い換え時の参考にしていただければと思います。 
予算とその振り分け。
 もちろん、御予算に余裕がある方は思う存分、高級品を購入してその性能を享受して下さい。
しかし、なかなか好きなだけお金を掛けるというわけにはいかないのが普通だと思いますので、大雑把な目安として優先順位をつけると下記の通りです。

パーツ(ブレーキ、変速機、駆動系などメインコンポ)類>ホイール>フレーム>ハンドル、ステムやシートピラー(ポジションが決まるまで交換率が高い物)

 セオリーに反するんじゃないの? まずフレームからいいものを選ぶべきじゃないの? ……そうお思いでしょうか?

 あまり一般的に認識されていませんが、フレームは消耗品なのです。
 素材にかかわらず走行するに従って疲労が蓄積し、剛性が落ちてパワーロスが大きくなったり、更に限界を超えると破断したりします。いつか絶対にです。
 いつか、というのがいつぐらいかというのは使用状況によりけりで、日曜日しか走らないといったレベルだと10年以上何ともないフレームでも、年間1万km以上走るような人だと2~3年で新車時とフィーリングが変わって来るでしょう。

 クロモリは長持ちするんだよね? ともよく言われますが、私は学生時代フレームが2年保ったことがありません。
 重くてもいいからとにかく硬いのを造ってくれと022(注:かなり肉厚が厚いパイプ)で組んでいたのですが、おおむね2年と保たずに金属疲労でヘッド下やハンガーラグ周辺にクラックが入りました。
 しかし、同じビルダーがそれより圧倒的に肉厚が薄いパイプで軽く造ったフレームを20年以上乗っていらっしゃる方もいらっしゃいます。
 要するに乗り方次第なのです。

 材質にかかわらずレース用の軽量ハイエンド製品ほど寿命が短くなる傾向にありますので、50万円以上するフレームの美味しいところが1年くらい、という事もあります。
 圧倒的に強大なパワーのプロ選手が使って平気な物がそんなに華奢なわけ無いだろ、と思われるかもしれませんが、彼らは年間何本ものフレームを使い潰しているのです。
 自分の使用状況と予算をよく考えましょう。
 高い物を5、10年と使い続けるより、半分の価格の物を2~3年で乗り換えた方が結果的に良い場合が多いです。

 傾向から言えば、金属疲労が蓄積しやすいアルミの軽量フレームが最も寿命が短いかもしれません。
 アルミの場合は特にたわませると急速に金属疲労が進行しますので、肉厚の厚いパイプが使われているエントリーグレードの方が耐久性は高いです。

 余談ですが、シートステーなどを湾曲させているアルミフレームは、強度を確保する為にある程度以上肉厚を薄くする事が出来ず、過剰になりがちな剛性を意図的に落として剛性バランスをコントロールする為の物です。
 肉厚やカーボンシートの積層の仕方や樹脂量で剛性をコントロールしやすいスチールやカーボンの場合、湾曲させた形状などは主に見た目の理由と考えて間違いないと思います。

 また、カーボンは錆びないし劣化しないでしょ? とよく言われますが、むしろ乗らなければほとんど劣化しない金属フレームに対し、紫外線や大気中の水分などで劣化するカーボンの方が経年劣化に弱いとさえ言えます。
 カーボン、と言いますが、カーボンファイバー強化樹脂(CFRP)、要するにプラスチックであることを思い出して下さい。
 また、釣りをやる人でしたらカーボンロッドは使い続けると反発力が弱くなり、より軽量な高級品こそその寿命が短い事は常識だそうです。

 ましてや最初の一台ともなれば、良し悪しの基準が出来ていないので高い物を買ってもそのありがたみも判りませんし、単純に見た目などの好みも変わりやすいでしょう。
 安い物を買うとすぐ不満が出るから頑張って高い物を、というのではなく、いずれ買い換えるのだから最初は比較的リーズナブルな物を、というのが現実的な選択なのです。


そしてホイール。
 直接走行性能に影響するんだから一番優先順に高いだろ? と思われるかもしれません。
 確かに、製品自体の性能的費用対効果は最も高い部品と言えます。
 では何故優先順位が最上位でないのか?
 それは、ホイールも消耗品だからです。
 ぶつけて破損する、金属疲労でスポークが切れる、といった事以前に、ブレーキシューの当たり面が摩耗するという極めて単純かつ避けられない宿命があります。
 そしてこれはレースやそれに向けた練習の為に激しく乗る以上に、マッタリ志向のロングライドの方が消耗度がより著しい傾向にあります。
 なぜなら、ロングライドは出先で降られてしまったら雨の中でも長時間走らざるを得ないケースが多く、かつ下りで安全確保の為にブレーキを当て続けている事が多いからです。
 雨中走行では砂混じりの水に洗われながらブレーキシューでリムを擦り続けるのでヤスリで水研ぎしているような状態になり、アルミリムでも恐ろしい勢いで削れてゆきます。
 ブレーキの負担が大きい山岳コースでしたらなおの事。
 ましてやブレーキの当たり面がカーボンだったりすれば、どうなるか想像に難くないでしょう。

 当然、走り方によって消耗度が著しく異なるのですが、ハイエンドの製品に手を出すのは「性能の為ならもっとお金を出しても惜しくない」と思えるようになって(廃人度が増して)からでも遅くないでしょう。
 しかし走行性能には大きく関わるところですので、コストダウンの為に最下級グレードのホイールを履かされているメーカー完成車の場合、最もグレードアップ効果が顕著に表れるところですし、部品バラ買いで自転車を組む場合は最初からそれなりによい物を選びたいところ。
 セカンドグレード、ミドルグレードあたりから選ぶとコストパフォーマンスが高いと思われます。
(ホイール選びに関しては後日また詳しく取り上げます)


ハンドル、ステムやサドル、シートピラー(ポジションが決まるまで交換率が高い物)。
 この辺りはライディングポジションが決まるまでは、比較的安い物を色々試してみるのがよい事は判るでしょう。


パーツ(ブレーキ、変速機、駆動系などメインコンポ)類、これらの優先順位が最も高いと主張する理由は何故か?
 パーツは後から交換出来るので、最初は安い物でいいのではないか?
 確かに、後から交換しても構いません。
 ですがメインコンポ類は耐久性が高く、比較的使い回しが効くのです。
 チェーンやブレーキシューなどの摩耗する物はさておき、クランクやブレーキキャリパ、レバーなどは落車などで壊さなければ通常壊れませんし、ヘタりもしません。
 パーツは壊れたときに入れ替えようと思っても、なかなかその切っ掛けが訪れず、結局不具合ではなくよりハイグレードな物に対する欲求から買い換える事が多いものです。
 更にパーツに限っては、基本的には高い物ほど耐久性も高いのです。
 ベアリングを使用している部品は特にそれが言えます。
 ですから後々不満が出て買い換えたりするくらいなら、最初からそこそこ良い物を購入しておけば買い換える必要もなく、無駄が少ないのです。
 例えばシマノのデュラエースを使っている人などは、新しい部品に交換したくても壊れてくれないから買い換える切っ掛けが出来ないとまで言うケースが多いくらいです。
 現に私自身、2005年から7801デュラエース一式を使用しておりますが、その間フレームは3本目でそろそろ次のフレームも考えていますが、次もパーツはまた移し替えると思います。

 性能的にも、自転車の車重に大変こだわる風潮がありますが、重量を気にするならこのように使いまわしが効くパーツから詰めて行くのが効率的と言えましょう。
 例えばデュラエースとアルテグラ、コンポーネント一式で400g程度の重量差があります。
重量を気にするならシマノならデュラエース、カンパならコーラス以上にしろ。話はそれからだ。というところでしょう。
 超軽量フレームに105では、かなり非効率的です。

 ただし、先にも挙げた「チェーンやブレーキシュー等、摩耗する」消耗品の存在を忘れてはいけません。
 これらの消耗品の価格をあらかじめ把握して、ランニングコストまで考慮してパーツ選びする事をお勧めします。

 余談ですが、各メーカーのカートリッジ式ブレーキシュー(=ゴムの部分だけ交換出来る物)は、シュー自体は各グレード共通です。
 例えばシマノの場合、105以上のグレードは現行全てR55C3というシューを使用しています。
ブレーキシューのグレード差異はホルダーにしかありません。
 ですから、105のブレーキ本体にホルダーごとデュラエースのブレーキシューを付け替えたとしても、制動力は全く変わりません。


 こうした考えを念頭に置いていただけると、メーカーの完成車を選ぶにせよ、フレームと部品をバラ買いして組むにせよ、見方が変わってくるかと思います。

 はっきり言って、見栄えがするフレームにお金を掛けた方が製品としてキャッチーで、それに安いパーツやホイールを組み付けた方が完成車としての価格を抑えやすく、メーカーやショップとしては売りやすいのです。
 しかも後からパーツやホイールを交換して貰えれば、パーツ代や工賃も頂けるので、売る側としては美味しいのです。
 ではなぜそれを薦めない? お前も自転車屋だろう? と思われるかもしれません。

 しかし、ただでさえ比較的お金が掛かりがちな自転車趣味、お金をつぎ込んだ割に面白くないのでは長続きしません。
 短期的には高い物を売ったり頻繁に部品の買い換えなどして貰った方が売り上げは上がるかもしれませんが、「お金はたくさん掛けたけどそれほど面白くない」と思われて自転車に乗る事自体に飽きられてしまっては、結果的に先細りになって我々自転車業界も不利益を被るのです。

 無駄なく効率よく、満足度の高いコストの振り分けをして、まずは自転車に乗る楽しさを覚えて下さい。
 そして長く乗り続けて下さい。

ステム・ハンドルバー・シートピラー(Dixna or 日東)
サドル               セライタリア XO
メインコンポ一式、ペダル シマノ105(5700)
フレーム             ORBER AQUA
ホイール             WH-6700(アルテグラ)
タイヤ               パナレーサーレースA 25C
チューブ             takizawa ウルトラライト

 具体的な見積もり事例では、上記仕様完成車実売価格 税込18万円台で収まります。
 また、上記構成でフレームにTNI 7005mk2を使用すれば15万円を切る事も可能なので、とりあえずロードとはどういうものなのかに親しみ、乗り方を覚えてからフレーム交換する前提ならそのくらい割切った方が、数年スパンでのトータル出費が抑えられるかもしれません。


 次回はフレームや完成車を選ぶ際、最も重要(どのメーカー、どの素材のモデルを選ぶかと言った事より圧倒的に優先順位が高い問題)なライディングポジションに関して述べたいと思います。