編集幹事、ばんざいです。

 フレーム製作屋の端くれとして、ロングライド向きの自転車及びフレーム選びを提案したいと思います。
それにあたりまず先に、世間で誤解されがちなフレーム特性に関して少々述べさせて頂きます。

 まず声を大にして言いたい事。
『柔らか過ぎるフレームは乗り心地が悪く、パワーロスも大きく、ロングライドには向かない』
 俗に言うコンフォート系が本当にロングライドにおいてコンファタブルなのか? というのはかなり疑問が生じるところです。

 特にフォークが軟らか過ぎると致命的に振動減衰性は悪化します。
 このあたりが、多くの方が(メーカーでさえ)誤解している点です。
 ハーシュネス(=突き上げ)をマイルドにするのと振動減衰性は時として相反するのです。
 比較的安いアルミフレームが硬過ぎて乗り心地が悪いと言われる原因の一つは、実は組み合わされているフォークの剛性不足に起因すると思われます。

硬い=剛性が高い(入力に対して弾性限界内での変形量が少ない)
 ――であって、振動の減衰にはある程度剛性があった方が有利となります。

 また、『硬いフレームは脚に来る』というのも説明不足です。
(これに関しては後述)


 まずは乗り心地の面から。
リジッドフォークとはいえ、完全剛体ではない以上、一種のトレーリングリーフスプリングであるといえます。
 その剛性が落ちる=スプリングレートが下がるという事は、同じ外部入力に対してストローク量(=たわみ量)が増える事になります。
 サスペンションと同じで、良く動いた方がショックの吸収性が良い――わけではありません。
 サスペンションと異なり、スプリングの振動を減衰するダンパーが存在しないので、スプリング自体が変形したエネルギを熱エネルギに変換するまで振動が続きます。
 変位量×スプリングレートが変形エネルギなので、剛性が高くても低くても大して変わらないはず、という考えは、ブレード自体の慣性質量を無視しています。
 ましてや実走ではバネ下(ホイール等)の慣性も含まれますので変位量が大きければそれだけ大きな慣性が働くわけです。
 その為、スプリング(ここではフォーク)の変位量が大きいと、衝撃の当たりは柔らかいが振動が長く続く事になります。
 逆にフォークの変位量が相対的に少ない場合、単位時間あたりにタイヤが変形して衝撃や振動を吸収する仕事量が増えます。
 ゴムとエアで出来たタイヤはヒステリシスロスが大きく、振動の収束は極めて速いので、大きく変形したところで乗り心地面で問題は生じません(リム打ちとかは論外として)。
 つまり、少なくとも路面からの振動などは、フォークを動かすのではなくまずタイヤに仕事をさせた方が有効である、というわけです。

 ロードバイクで乗り心地に不満を持つ方は、まずタイヤを現在主流の23Cより太めの25Cを試してみる事をお勧め致します。
 剛性の不十分なフレームやフォークでは、慣性質量増加により振動でタイヤ自体がばたついて、性能を十分発揮出来ない可能性もありますが。

 そしてフレーム本体との剛性バランスも大きく影響します。
 フレームに対して相対的にフォークの剛性が低いと、フレーム全体に衝撃や振動を伝える前にフォークが大きく変形してしまいます。
 フォークがショックを吸収するならそれで良いではないか――とはなりません。
 フォークが変形しても衝撃や振動が無くなるのではなく遅れて伝わるだけなので、変形したフォークとフレームがバラバラに振動する事になり、度が過ぎれば一層不快な乗り味となります。
 フォークからの入力は速やかにフレーム本体に伝わった方が、フレーム全体、ひいては自転車全体に衝撃・振動を分散出来るので、結果としてマイルドな乗り味に繋がります。
 経験的にも、どちらかと言えばフォークやフレーム前半の剛性がフレーム後半のそれを上回っていた方が、ハンドリングも乗り心地も良くなる傾向にあります。

 た だ し 。

 何が何でも剛性が高いフレーム・フォークの方が乗り心地が良い、というわけではもちろんありません。

>スプリング(ここではフォーク)の変位量が大きいと、衝撃の当たりは柔らかい
 このメリットを全否定するものでもないのです。
 表題にあげた「剛性が低過ぎるフレームは乗り心地も悪い」の『低過ぎる』というバランス点は、乗り手の体重や体格、路面状況によって大きく変わります。
 まして最終的には乗り手の好みで大きく左右されるので、結局は相対的でかつ個人的な問題であるわけで。
 例えば私は体重が70kg以上、身長も178cmあります。
 もっと軽量あるいは小柄な人の場合、剛性が低いフォークの方に乗り心地でも好印象を得る、という事は十分考えられます。
 何事も程度問題。

 また、総体としての剛性が同等でも、局部的な剛性バランスによって大きく乗り味が変わってきます。

「各チューブ等強度メンバの剛性が高くて接合部でたわむ」
「接合部が強固で各チューブの中間でたわむ」

 硬くて乗り心地が悪いと感じる場合、前者の接合部でのたわみ量が相対的に大きいケースである事が多いように思います。
 これは個々の構造体がそれぞれバラバラに動いてしまう為、全体に衝撃や振動を分散出来ていない為でしょう。
 同等の剛性でも後者の接合部のたわみ量が少ない特性の方が、体感的にしなやかに感じられると思われます。
 単に硬い・軟らかいでは語れません。
 つまりベンチ上での単純な曲げ、捻れ剛性の比較だけではフレームの性格は判らないわけです。


 そもそもこうした机上論以前に、現実に400km以上の超ロングブルベになるほど、ハイエンドのカーボンフレームより安価なアルミフレームを使っている方の比率が多くなる傾向が見受けられます。
 しっかり走り込む方ほど、フレームは消耗品であるという現実を踏まえているという事もあると思われますが、アルミフレームの中でも安価なモデルは肉厚の厚めなチューブを用いられており、過剰剛性な傾向は否めません。
 また、私自身もレースの事しか考えずに設計した超高剛性フレームや、
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現代的なTIME、EASTON、3Tといったカーボンフォークよりも更に高剛性なスチールのストレートフォークを使用する事もあります。
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 硬いフレームが本当に身体に対して大きな負担になるのであれば、これらで(しかも特定小数ではなくかなり多くの人により)超ロングライドがこなされている現実の説明がつかないのではないでしょうか?

 よく雑誌やwebで語られるロングライドは100km、200km程度が中心です。
 その情報と、現実の超ロングライド界における実態。
 貴方はどちらを信じますか?


 次回『硬いフレームは脚に来る』の真実 に続きます。