編集長あきばっくすです。
今年の5月に沼津400に出たときの泣き言などを。
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いつの間にか空は白み始めて
富士川沿いの道はのぼりくだりが激しすぎて何度も嘔吐感に襲われた。

重いギアで上ってはいけないのはわかる。
なのに軽いギアでケイデンスを上げると心拍数が上昇して
とたんに胃が震えるような吐き気に襲われるのだ。

深夜の長野県内では実際に吐いた。
吐いたといっても、すでに胃が固形物を受け付けない状態だったので
出てくるのは水っぽいものばかり。

継続してペダルを回せないからスピードは20キロ以下しか出ない。
少しペダルを回しては足を止め、
ステムには鼻水が際限なく降りかかり、
右手の小指はしびれてとっくに感覚がなくなっている。


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眠気はなかったが腰が痛いためにちょっとした上りでも止まって腰を伸ばす。
コンパクトクランクに27Tのインナーローで倒れる寸前の
5キロとか6キロというスピードで坂をよろよろと上る。

楽しいとはまったく思わなかった。
あるのはただ帰巣本能だけ。

いつの間にか沼津の街に入る。
フラットなはずなのに相変わらずクランクをまわせない。

なぜ、走るのか。
自分の限界を知りたいなんてきれいごとじゃない。
そういう意味では自分の限界はよくわかった。
400kmのメダル? 記念にはなるけどモチベーションにはならない。

別居している妻の顔が浮かぶ。
際限のないペダリングはいろんな後悔を心に呼び覚ます。
ああ、あの時あんなことをしなければ。

幻覚も見た。幻聴も聴いた。
電柱の影という影には人が潜み、路面を何匹もの亀が歩いていた。
不思議と眠くはなかったが、目を開いたまま夢を見た実感が残った。



家に帰った後、何度も塩尻峠の夢を見た。
繰り返し繰り返し深夜の塩尻峠を北から上るのだ。
ゆるく長い坂はカーブの度に残り距離が増えてゆく幻覚をもたらし、
沿道の幻の虚人がこの世のものとは思えない歌を歌う。
その歌を聴きながら、ぼくは果てしなくペダルを踏んでいくのだった。